イギリス児童文学の旅

ジェームズ・リーヴズの詩の舞台を訪ねて

クロウタドリ(コーク大学)

訳者まさきるりこさんの主宰する鴨の子文庫へ子どもと毎週土曜日に通っていた時、「この詩集も楽しいわよ!」と原書の“The blackbird in the Lilac"を借りたのが、この本と最初の出会いでした。
  毎晩少しずつ、子どもたちに読み聞かせをしました。私は英語があまり得意ではないので、読んでも内容はあまり理解できませんでした。けれども好きな詩はいくつかありました。
 「ブタのおはなし」や「りっぱな音楽隊」の繰り返しや、ことばのひびきをを楽しみ、アーディゾーニの挿絵の「運の悪い三人の男」や、枝のまがりくねった木々の絵、なかでも教会の絵にひかれました。
  こうして家族で楽しんだ二年後に『ライラックの枝のクロウタドリ』が出版されました。
 おはなしの仲間が「この本に出てくる地名は全部イギリスにあるのよ。」と地図を作ってくれました。毎日、毎日その地図をながめて、詩を声に出して読んで過ごすうち、「自分の足で、リーヴズの世界を見てこよう」と旅立つことを決め、とんとん拍子に進んで気がついたら、アイルランドのコークの土を踏み「コークの大僧正(ブタのおはなし)」を探していました。

ライラックの枝のクロウタドリ


「幸いあれ!」、「幸いあれ!」と、
ライオラックの枝で鳴く、クロウタドリの声が聞こえる。
わたしはあてもない旅に出ようとするところ、
陽のさんさんと照る夏の日に。

わたしの背中のリュックには、
たのしげな色合いのリボンやら、悲しいバラッドや
あれやこれやの品々がずっしりと。
だが、わが家への思いは肩の荷よりまだ重い。

「さあ、さあ、来て買っとくれ、皆の衆!」
橋の上、また村の広場で呼ばわって、
緑の草地でおもちゃや小間物
広げて見せるが、買うものはいない。

それでもわたしはバラッドを、うたって歩く、
わが家を思いつつ、運にまかせて足まかせ。
たとえわたしの歌に耳かたむけるものいなくとも
わが家へ向かって帰りはしない、幸いに巡りあうまでは。

クロウタドリはうたいつづける、「幸いあれ!」と
甘い香りのライラックの枝で。
夏の日の、この歌の良き約束は、
きっとわたしに幸いをもたらしてくれるにちがいない。

『詩集 ライラックの枝のクロウタドリ』
ジェームズ・リーウ”ズ 著
エドワード・アーディゾーニ 絵
間崎ルリ子 訳
こぐま社



 クロウタドリに会いたくて、アイルランドのコークに降り立ちました。ホテルのフロントで尋ねると、「クロウタドリなんて、どこでもいるよ。」という返事で、まるでカラスかハトを訪ねて、日本からはるばる来たように思えました。
 教えてもらったコーク大学構内で遠くからそれらしい鳥を見つけ、「灰色なのはクロウタドリの雌だからか…」と自分を納得させ、あいにくの雨だったため、大学を後にしました。
 門のわきには、美しいしだれ柳があり、リーヴズの詩のフレーズ「しだれ柳が枝たれる、なつかしの土地へ」を思い出しました。
ページのトップへ戻る